東京駅丸の内駅舎から見る空中権

空中権とは!?

容積率売買。空中権。容積飛ばし。3つとも同じ意味ですが、あまり聞かない言葉です。東京駅丸の内駅舎は、ご存じでしょうか。JR東日本は、2007年に東京駅丸の内駅舎の保存・復原工事を開始しました。費用は500億円。その費用は、東京駅丸の内駅舎の容積率を売買して捻出したお金です。本日は、空中権については、お話していきます。

空中権とは?

空中権とは、建築基準慣例法令の規定によって、土地の上下に建築物を建築することのできる空間の一部に対する権利をいいます。これは、建築基準法でいう「容積」に該当します。

ある土地が、容積率を消化しきっていない場合、他の土地がその未使用部分の容積(余剰容積)を譲り受けたり、利用することはできません。しかし、都市の高度な利用を図るため、特定の場合には、その余剰容積の移転が認められることがあります。

余剰容積の移転が認められるケース
  1. 特定街区制度
  2. 一団地認定制度
  3. 容積率適正配分制度
  4. 連坦建築物設計制度
  5. 特例容積率適用区域制度

特例容積率適用区域制度とは?

特例容積率適用区域とは、都市計画で指定された区域内で、指定容積率の一部を他の敷地に移転することができる制度です。特例容積率適用区域では、その区域内であれば、隣接していない敷地へ容積率の移転が認められます。これによって区域内での空中権の売買が可能となります。

f:id:keiichi2017:20190725232050j:plain
内閣府「容積率適用区域制度」より

特例容積率適用区域は、平成14年5月に「大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区」の約116.7haが日本で第1号として指定されました。事例としては、JR東京駅丸の内駅舎の未利用容積の一部移転を受けた平成17年10月竣工の「東京ビルディング」が初であり、駅舎の復元保全のための資金調達になっています。

JR東京駅丸の内駅舎の空中権売買の移転先は、6つあります。こちらは、後程紹介していきます。

f:id:keiichi2017:20190725231207j:plain
東京都整備局「大 手 町 ・ 丸 の 内 ・ 有 楽 町 地 区 特例容積率適用地区及び指定基準 」より

東京駅丸の内駅舎の保全・復原

ここでは、東京駅丸の内駅舎の歴史と保全・復元について話をしていきます。

東京ステーションホテルとは?

東京ステーションホテル(TOKYO STATION HOTEL)は、東京駅丸の内駅舎で営業しているホテルです。ホテル部分の駅舎建物は、赤レンガ造りで辰野金吾氏の設計です。

1914年(大正3年)に東京駅丸の内駅舎が完成し、その翌年1915年(大正5年)に東京ステーションホテルが開業しています。

現在は、民営でJR東日本ホテルズが運営を行っています。

東京ステーションホテルの歴史

東京ステーションホテルは、当時の経済情勢によってホテル建築計画が幾度となく揺れ動いた経緯があり、東京駅丸の内駅舎が完成した翌年から開業しています。

開業された1915年から築地精養軒が営業を請け負っていました。その後、関東大震災で精養軒の築地店が全焼し経営が悪化したため、ステーションホテルのサービスも悪化したことから、1933年に営業委託解除となりました。その後は、鉄道省がてこ入れを行い、東京鉄道ホテルとして再開業しました。

1945年に連合国軍の爆撃により3階建ての一部が炎上、屋根部分が破壊されました。大戦後に、修復工事が行われましたが、建物本体は2階建てとし、ドーム部分のみ3階客室が残されました。GHQの意向で国鉄によるホテル直営が認められなかったため、日本交通公社に委託して再開することとなりました。しかし、経営悪化したことから1950年に日本ホテルが設立され、ホテル名が東京ステーションホテルに再び戻され日本ホテルが運営を行うことになりました。

2003年、東京ステーションホテルを含む赤レンガ駅舎が重要文化財に指定されました。2006年には、東京駅丸の内駅舎の保存・復原工事のためホテルを休館、2012年に保存復原工事完了を受け、営業を再開しています。

東京駅丸の内駅舎容積売買

東京駅丸の内駅舎の保存・復原工事の費用は、どこから調達したのでしょうか。具体的に話をしていこうと思います。

東京駅丸の内駅舎は、700%分の容積移転

東京駅丸の内駅舎は、保存・復原のために容積率の移転を活用して費用を捻出しています。具体的に話をしていきましょう。対象地は、指定容積率900%の地域ですが、東京駅丸の内駅舎の保存復原に必要な200%分の容積率を残して、残りの700%分の容積率を売買しています

東京駅丸の内駅舎の容積移転先の6つとは!?

東京駅丸の内駅舎の容積移転先は6つあります。移転先については、下記の通りです。

東京駅丸の内駅舎の容積移転先
  • 東京ビルディング:特例容積率1266%(指定容積率1000%)
  • 丸の内パークビルディング:特例容積率1430%(指定容積率1300%)
  • 新丸の内ビルディング:特例容積率1655%(指定容積率1300%)
  • グラントウキョウサウスタワー:特例容積率1304%(指定容積率900%)
  • グラントウキョウノースタワー:特例容積率1304%(指定容積率900%)
  • JPタワー:特例容積率1520%(指定容積率1300%)
f:id:keiichi2017:20190725230336j:plain
国交省 「第13回都市計画制度小委員会 参考資料」より

空中権の登記

空中権の登記は、関係権利者の合意を担保する措置として、地役権を設定して、容積移転の内容が登記簿に明示されることになります。ちなみに、容積率移転取引での契約は「余剰容積率利用権売買契約書」などとして取り交わされます。 

東京ステーションホテルに泊まって

東京ステーションホテルには、「東京駅とホテルの歴史を知るHistorical Tour1915-2018 1日3組限定(朝食付)」プランがあります。私は、実際にこのプランで宿泊してみました。体験談をお話していきたいと思っています。

東京駅とホテルの歴史を知るHistorical Tour

東京ステーションホテルは、2015年11月に開業100年となりました。ホテルと駅舎の開業からこれまでの100年の歩みを深く知り、楽しむためのヒストリーギャラリー鑑賞付き宿泊プランがあります。

このヒストリーギャラリー「ヒストリカルエクスペリエンス」は、1日3組限定のプランです。このプランの宿泊者には、タブレットが貸し出されます。

下記は、貸し出されるタブレットの説明書です。

f:id:keiichi2017:20190728142930j:plain
The Tokyo Station Hotel HISTORICAL EXPERIENCE Gallery①
f:id:keiichi2017:20190728142609j:plain
The Tokyo Station Hotel HISTORICAL EXPERIENCE Gallery②

ホテルの客室廊下には、東京ステーションホテルや東京駅丸の内宿舎をはじめとするアートワーク作品107点が年代順に展示されています。2階廊下から3階廊下、4階廊下という順番です。「ヒストリカル エクスペリエンス」は、タブレットを使ってアートワークに設置されたQRコードを読み込み、絵画や写真を解説を楽しむことが出来るものです。美術館の様な廊下を巡り、絵画や写真を見ながら、100年の歴史に触れることが出来ます。また、宿泊記念として、書籍「東京ステーションホテル物語」とホテルオリジナルブックカバーのプレゼントがあります。

日本初の地下鉄道「東京駅~中央郵便局」!?

ホテル客室廊下のアート作品で最も記憶に残ったものがこちらです。

f:id:keiichi2017:20190728144038j:plain
東京ステーションホテル「東京駅~中央郵便局への地下鉄道_1918」

昔、東京駅には、中央郵便局から郵便運搬用の地下電車が走っていたようです。今はその地下はどうなっているのかなと色々考えてしまいます。

f:id:keiichi2017:20190728144328j:plain
東京ステーションホテル「タブレット説明画面」

タブレットを使って解説をみます。文章で見ることもできますし、ナレーションをタップすると説明を聞くことができます。

解説では、「東京駅を写した無数の写真の中でも、珍しい写真のひとつ。東京中央郵便局と東京駅の間を運行していた小さな電車は、鉄道の歴史において重要な意味を持ちます。というのも、これが日本最初の地下鉄道なのです。」とされています。

東京駅ステーションホテルが舞台となった物語

松本清張は、旧ホテル209号室(現2033号室)の窓から列車が行き来するホームを眺めるうちに代表作「点と線」のトリックを思いついたと言われています。昭和30年代、東京駅は1番線から15番線まで、間に列車が入らないで見渡せる時間帯が1日に4分だけあった。この4分間を使ったトリックが主題になった松本清張の代表の推理小説が「点と線」です。

ちなみに、限定プランでプレゼントされた東京ステーション物語の中では、「清張が209号室から東京駅ホームを眺めたとしても点と線に使われた4分間の空白はわからない」とされています。真相はいかに。。

「東京ステーション物語」より

空中権の身近な2つのお話

空中権。東京駅丸の内駅舎以外に、容積売買の身近なお話を2つしようと思います。一つは、トランプタワーについて、二つ目は、首都高速についてお話をします。

【トランプタワー】ティファニーから空中権を購入

現アメリカ大統領のドナルド・トランプ。世界屈指の不動産王としてよく知られている人物でもあります。そんなトランプ氏が所有する不動産の一つにトランプタワーがあります。トランプタワーは、高さ202mの58階建ての複合ビルです。トランプタワーは、隣のティファニービル越しにニューヨーク市街が一望できることで知られています。一望できる眺望はどのように手に入れたのでしょうか。

トランプタワーからニューヨーク市街が一望できるのは、ティファニー本店が7階建てのためです。ティファニー本店は8階建て以上の建物を建築できません。これはなぜでしょうか。空中権が関係してきます。トランプ氏はティファニー本店から空中権を10億4500万円で購入したという話です。

そもそも空中権は、アメリカで生まれたもので、その後日本も取り入れたということです。アメリカの不動産制度は、日本の30年先を行ってるといいますが、空中権についてもそういえるでしょう。

 【首都高速】首都高の改修費を空中権でまかなえないか!?

老朽化している首都高速道路の改修について、首都高に蓋をして空中権を売り、改修費用を賄うという計画があります。これは、首都高が都市景観上からも問題を指摘する声が多くあり、首都高の地下化と空中権売買によって資金を捻出できれば一石二鳥と考えているからであろう。

問題点としては、首都高の改修に必要な資金は1兆円を超えると言われています。東京駅丸の内駅舎の改修費用は500億円でした。一部の空中権を売却しただけでは財源は足らないと言われています。

さて、最近この話題は消えています。この手の話は紆余曲折することが多いです。首都高改修の今後に注目したいと思います。